はじめに
ブラックスカイ(BlackSky Technology Inc. )は、米国株式でティッカーシンボルBKSYです。
ブラックスカイは、衛星画像、人工知能、およびその他のデータ ソースを組み合わせて使用して、地球の表面に関するグローバルな監視サービスと洞察を提供する地理空間インテリジェンス企業です。
最近色々と調べて、考察も加えたので文章にします。なお、本記事は特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
なぜ「スケールする仕組み」が大事なのか
宇宙ビジネスは、とにかく初期投資の重い世界です。
- 衛星の設計・製造
- ロケットでの打ち上げ
- 地上局や運用システムの構築
- データ処理・解析ソフトウェアの開発
ここまで全部、先にまとまったお金が出ていきます。
だから投資家の立場から見ると、どうしても気になるのは、「一度つくったものを、どれだけ多くの顧客に、どれだけ長く使ってもらえるか」という 「スケールする仕組み」があるかどうか です。
単発の受注や個別カスタムだけに頼っていると、
売上が上がるたびにコストも増え続け、いつまで経っても“楽”になりません。
その点、BlackSkyは
- Gen-3衛星 × AI解析プラットフォーム(Spectra)
- sovereign space-based ISR(各国向けの“主権”衛星ソリューション)
という2つの柱を通じて、「スケールする仕組み」を意識した戦い方をしようとしているように見えます。
Gen-3 × AI解析:ソフトウェアで衛星を“何度でも売る”
高解像度になると、AI解析の“ネタ”が増える
Gen-2時代のBlackSkyは、「高頻度だが中程度の解像度」の画像を大量に撮るビジネスでした。
ユーザーにとっては「とにかく頻度が高い」のは便利ですが、
AIで抽出できる情報量には限界がありました。
そこでGen-3では、解像度が35cm級に引き上げられ、
「箱トラックとトレーラー」「乗用車とピックアップトラック」など、
オブジェクトの細かな違いまで見分けられるレベルを狙っています。
これは裏を返せば、「1枚の画像からAIが取り出せる特徴量が一気に増える」という意味でもあります。
Gen-2までは「とりあえず何かがいるかどうか」レベルの検知だった世界が、
Gen-3では「何が、どれくらい、どんな動きをしているか」まで踏み込める世界に近づく。
この変化が、AI解析ビジネスの土台になります。
一度つくったAI解析モデルを、サブスクで“使い回す”
ここで効いてくるのが、ソフトウェアのスケール性です。
BlackSkyの理想形は、
- Gen-3の高解像度画像を入力に
- 車両検出・船舶検出・施設の変化検知などのAI解析モデルを動かし
- その結果(アラートや解析レポート)をサブスク形式で複数の顧客に提供する
という形だと考えられます。
つまり、
『一度つくったAI解析モデルを、サブスクとして継続的に使ってもらう。
衛星画像そのものではなく、「変化検知」や「車両検出」といった“機能”に対して、毎月・毎年の利用料を払ってもらう。』
というビジネスイメージです。
衛星や地上局のようなハードウェアと違い、
AIモデルや解析ソフトの追加利用コストは比較的小さくて済みます。
- モデルの開発や学習にはまとまった投資が必要
- しかし、一度できあがったモデルは、追加の顧客・追加の地点に対しても繰り返し使える
ここに、「スケールする仕組み」としてのポイントがあります。
同じGen-3コンステレーションから得られるデータを、
- 別の国
- 別の機関
- 別の用途
に対して、AI解析サブスクという形で何度も提供する。
これが、期待している「AI解析ドライブの成長シナリオ」の中核だと思います。
sovereign space-based ISR:設計を使い回しながら、国専用コンステを売る
もう1つの「スケールする仕組み」が、sovereign space-based ISR です。
これは簡単に言えば、
『Gen-3で培った衛星バス・センサー・運用ノウハウをベースに、
各国向けの“専用コンステ+運用サービス”をパッケージで提供する』
というモデルです。
ポイントは、
- 完全なフルカスタム衛星をゼロから設計するのではなく
- Gen-3をベースとした共通プラットフォームを持ちつつ
- 軌道・台数・タスキング方針・地上システムなどを、国ごとの要望に合わせて調整する
という「半カスタム×量産」の考え方に寄せている点です。
このやり方がうまくいくと、
- 衛星ハードの設計・部品を大きく使い回せる
- 製造ライン(LeoStellaなど)のスループットが上がり、1機あたりコストが下がる
- 地上側の運用ソフト・AI解析も共通基盤を流用できる
という形で、「スケールする仕組み」が効いてきます。
言い換えると、
『Gen-3という共通の“基本形”を用意しておき、
各国の主権ニーズに合わせて、“専用コンステに見えるように”組み立て直して売る。』
これが、BlackSkyが狙っている主権ISRビジネスのコアだと考えられます。
(重要)「スケールする仕組み」に期待する投資家が気をつけるべきポイント
ここまで見ると、Gen-3×AI解析も、主権ISRも、聞こえはとても魅力的です。
ただし、投資家としては良い面だけでなく、注意すべき点も押さえておきたいところです。
「スケールする」は、必ず数字で確認する
経営陣やその他の人々が「プラットフォーム」「スケール」「サブスク」といった定性的な話を言っていても、
最終的には決算に出てくる数字で判断する必要があります。
例えば、
- 画像&AI解析の売上が、
- 年ベース・四半期ベースでどれくらいの成長率を維持しているか
- 全体売上に占める
- 「画像&解析」
- 「プロフェッショナルサービス(インテグレーション等)」
の比率がどう変化しているか
- 売上総利益率(原価率)が、
- Gen-3やAIの投入後に改善トレンドに乗っているか
などです。
「スケールする仕組み」が本当に機能していれば、
時間とともに ソフトウェア比率の上昇+粗利率の改善 が見えてくるはずです。
共通プラットフォーム依存の“逆回転リスク”
共通プラットフォームでスケールさせる構造は、
- 当たりを引けば強い
- 外すと「同じミスが全顧客に波及する」
というリスクも抱えています。
- Gen-3の設計で重大な問題が出れば、
→ それをベースにした主権ISR案件すべてに影響 - AIモデルの誤検知や性能不足が顕在化すれば、
→ 解析サブスクの信頼性が一斉に揺らぐ
という両刃の構造です。
「スケールする仕組み」は、成功すれば強い一方で、
一箇所の設計ミスや品質問題が“全体の足”を引っ張るリスクもある――という点は頭に置いておきたい。
収益の“ブレ”が大きくなることを覚悟する
スケール性の高い宇宙ビジネスは、どうしても
- 主権ISRのような大型案件が決まると、一気にバックログと売上が跳ねる
- 逆に、契約時期が一四半期ずれただけで、数字がガタッと落ちて見える
という「四半期ごとのブレが大きい構造」になりがちです。
投資家側のスタンスとしては、
- 一四半期の売上だけで「ストーリーが壊れた」と決めつけない
- 代わりに
- バックログのトレンド
- Gen-3の投入状況
- 解析売上の成長率を数四半期分まとめて見る
という見方が必要になると思います。
「スケールする仕組み」と資本政策(希薄化)はセットで見る
Gen-3の増産やAI解析のR&D、主権ISRに必要なインフラ整備など、
「スケールする仕組み」をつくるには、どうしても先行投資が必要です。
その資金を、
- ATM(株式の逐次発行)
- 転換社債
- その他のエクイティファイナンス
で賄う場合、既存株主にとっては 希薄化リスク と表裏一体になります。
「仕組みで増やす」ための投資が、
既存株主の取り分をどれくらい削るか——
ここも、決算や開示資料を通じて冷静にチェックする必要がある。
まとめ:今のBlackSkyは「スケールの方向性」としては悪くない
・Gen-3 × AI解析:
一度つくったAI解析モデルをサブスクとして複数の顧客に使ってもらうことで、
同じ衛星から何度も価値を取り出す「スケールする仕組み」。
・sovereign space-based ISR:
Gen-3の共通設計をベースに、各国向けの専用コンステとして展開することで、
設計・製造・運用のノウハウを横展開していく「スケールする仕組み」。
このどちらか一方でもうまく回れば、BlackSkyの収益構造は、
「単発案件頼み」から「仕組みで積み上がる形」へと変わっていく。
両方が軌道に乗れば、現在の規模から見て上振れ余地は大きい。
ただし、「スケールする仕組み」は両刃の剣でもある。
共通プラットフォームに問題が起きれば、一気に逆回転する可能性もあるし、
先行投資を賄うための希薄化リスクも無視はできない。
だからこそ投資家としては、
・画像&解析売上の成長
・バックログの積み上がり
・粗利率の推移
・資本政策の中身
を、決算ごとに淡々と確認し続けたい。
それでも現時点で見る限り、BlackSkyの進もうとしている方向性は、
「限られた資本でどこまで大きな成果を狙えるか」という意味で、
宇宙ビジネスの中ではかなり“スケール設計”を意識した戦い方に見えている。